ミカヅキカゲリプレゼンツ 葉月詩乃の墓では、年賀状の受け取り手を募集します。
年賀状には葉書に収まるくらいの小説を載せます。
読んでやっても良いと云う方は、サイトのメールフォームより郵便物の届く、住所と氏名を明記の上、お申込みください。
 
 
ちなみに、去年の年賀状小説です。これはサイトに載せてしまったので、サイトにはロングバージョンを公開しようと思います。
 
 
甦りの卵                         ミカヅキカゲリ
 少女ケルンは、勇気を出して、目の前の扉をノックした。
 「はあい。」
 明るい声で答えて、扉を開けたのは、銀色の髪に青い眸をした少年だった。自分と同じ年かさだろうとケルンは思った。
 「あの、道に迷ってしまって。」
 ケルンは急に気恥しくなって、下を向いた。
 「君、酷く具合が悪そうだよ。」
「実は熱があるの。それに食べる物がなくて。」
 ケルンは正直に白状した。
 「まあ、入りなよ。スープとパンくらいならあるよ。具合が良くなるまで、うちに泊まっていけばいいよ。僕はクリスティーヌ。」
 「わたしは、ケルン。」
 奇妙な村だった。ケルンは三日ほどで、元気を取り戻し、村を散策して回った。村には少年しかいないのだ。
 「ねえ、どうしてこの村には、少年しかいないの?」
「それを説明するのは、ややこしいな。」
 クリスティーヌは微笑んだ。
 「クリスティーヌ!」
 二人の少年が走り寄って来た。
 「あれ? お客さん?」
 「うん、ケルンだよ。この二人はフランソワとアントワーヌ。」
 「わあ、もしかして女の子? 僕、初めて見た。」
 赤毛に茶色い眸のフランソワが昂奮した調子でまくしたてた。彼はケルンたちと同年代くらい、ブロンドで緑の眸のアントワーヌの方は十三歳ぐらいだろうだろうか。
 「アントワーヌは殆ど僕の乳母なんだ。」
 クリスティーヌは曖昧な微笑みを浮かべた。
 ある日のこと、夕食の後で、ランプの光が仄暗いテーブルに影を投げかけていた。
 「僕、もっと早く君と逢いたかった。」
 「どうして?」
 「君が好きなんだ。」
 「わたしもあなたが好きよ、クリスティーヌ。」
 クリスティーヌの青い眸とケルンの緑の眸が交錯した。
 「だけどもう僕には、時間がないんだ。」
 「どう云うこと?」
 「今日は、僕の十六歳の誕生日なんだ。君は前に訊いたね。どうしてこの村には少年しかいないのって。そうなんだ。そこが秘密なんだ。この村には少年しかいない。十六歳になると、この村の少年たちは、十六歳になるといったん死ぬんだ。と云うよりは繭になるんだ。繭は、やがて卵になる。卵は三十三日で孵化する。そして、僕たちは赤ん坊とし再び生まれ変わる。」
 「そんな、」
 ケルンは掠れた声で云った。
 「だから、これでお別れだ。触ってもいいかい?」
 「ええ。」
 クリスティーヌは震える手で、ケルンの黒髪に触れた。それから頬へと。
 「知らなかったな。女の子って柔らかいんだな。マシュマロみたいだ」  
 吃驚して、手を引っ込めたクリスティーヌに、ケルンは尋ねた。
 「それでアントワーヌがあなたの乳母なのね。」
 「その通りだよ。アントワーヌにはあと三年の猶予があるからね。」
 「それでは、記憶があるの?」
 「うん、大体はね。」
 クリスティーヌは床に腰掛け、まるで屈葬のように、手足を抱え込んだ。
 「おやすみ、ケルン。そしてさようなら。もし良かったら、五年後くらいにまたこの村を訪れて欲しい。」
 「判ったわ。」
 ケルンはそう云おうとしたが、涙にむせび、声にならなかった。
 次の朝、ケルンが目覚めると、クリスティーヌは巨大な卵型の繭に包まれていた。翌日には、眉は固い卵の殻となった。ケルンはその後も待ち続けた。卵が孵化するまで。
 その日は、フランソワとアントワーヌもやって来た。卵が割れ、中から銀色の髪に青い眸の赤ん坊が現れた。
 五年後、ケルンはクリスティーヌの村に戻った。村の外れでは、子供たちが遊びに興じていた。その傍らを通り抜けようとした時、ケルンは子供の一人がスカートを引っ張るのを感じた。
 「お姉ちゃん、もしかして、ケルン?」
 それは銀の髪に青い眸の男の子だった。
 こうして、二十歳のケルンと五歳のクリスティーヌの恋が始まる。