外泊ふつかめ。
ナースが眠前の薬を入れ忘れたため一睡もできなかったので、過覚醒。刺激が多すぎて、わたしはいっぱいいっぱい。ミカちゃん(弟)の読んでいるスポーツ新聞の見出しの青や黄色の文字でさえ、ちかちかして刺激が痛い。
ミカちゃん(弟)は、寝起きが悪くて殆ど話してくれないし、わたしはどんどん追い詰められて行った。
ミカちゃん(弟)は無言で片づけをしているし、TVが煩いし、トイレに入るまで死ぬかと思った。
トイレは吃驚するくらい狭くて刺激がなくて落ち着いた。トイレに籠つて、「周りは壁だよ。守られているよ。鋭い刺激も追ってこないから。」と云う、自閉症ばりばりの歌を作っていた。
繰り返して、何度も何度も歌う。
結局。
ミカちゃん(弟)が不機嫌になるくらい、トイレに籠つてしまった。
チェックアウトして、ホテルを出ると、ミカちゃん(弟)は声を励まして云う。「北に行く? 南に行く?」
気を遣ってくれているのだ。そう思ったら涙が出た。
車椅子が揺れる。揺れが痛みとなって、感じられる。
「博多駅に行って、博多シティに行く?」
「行くー。」
「それともマリンメッセに行って、AKBに会う?」
「会うー。」
マリンメッセは凄い人だった。行列。
しかし、車椅子って強いのだ。
直ぐに係員がやってきて、「こちらへどうぞ。」と云う。
「握手券とかはお持ちですよね?」
え? 持ってないよ、と思ったら、後ろからミカちゃん(弟)が平然と云う。
「はい。」
吃驚した。
それから、会場に入って、ひたすら待った。わたしは酷くいっぱいいっぱいだったからこの時間がもう死ぬかと思った。
泣いたりしていた。
「泣け、泣け。今のうちに。それで、施設に帰ったら平気な顏をするんよ。」
あんまり辛かったので、思わず俳句を作った。
「薄氷を踏みしめあゆむ握手会」。
薄氷(うすらひ)は季節外れ(春の季語)だけど、そんな心境だったのだ。
握手はまゆゆとした。
「映画を観て、好きになりました。」
「ありがとうございます。また逢いに来てくださいね。」
可愛かった。ぜったい聞き取れてなかったと思うけど(苦笑)。
それにしても、ミカちゃん(弟)は善い人だ。わたしがわたしなんかを連れて行っていたら、さぞかし鬱陶しいと思っただろうと思うけれど、ミカちゃん(弟)は「また行こうね。」と云ってくれた。