電信タイムカプセル
ミカヅキカゲリ
 環は、ドアを開けると奥のベッドに倒れこんだ。辛うじてストッキングだけは脱いだものの、このところ朝までそのままの格好でいると云う悪循環に陥っている。もう指先一つ動かせないと環は思った。
 今日は大晦日。環は、ショップガールだ。そして、お正月が誕生日だ。しかし、年末年始はまさに掻き入れ時。休み等は望むべくもなかった。
 同時に5通くらいのメールが来た。新しい年が明けたらしい。4通は友人からの、環の誕生日と新年を祝うグリーティングメールだった。しかし、5通目を開いた環はハッとした。それは見覚えのある文章で、秋に亡くなった父親からのメールだった。
「『いつもありがとう。おとなの人は、いつもはたらいて、えらいとおもいます。そうやってよのなかをうごかしている。たまきもおとなになったら、そんなはたらくおとなになりたいです。』
 いよいよですね。いつでも応援してます。父より」
 その文章は、環が5歳の父の日に父親の似顔絵に添えたものだった。環は、二十歳になった。夏に倒れた父親は、バタバタと体調を崩し、秋には亡くなった。メールは死期を悟った父親が、環の二十歳を見届けられないのを承知の上で、予め予約しておいたものだろう。
 涙が溢れた。一頻り泣いた後、環はお風呂を入れる為に、立ち上った。
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去年の年賀状に書いた小説だ。