わたしの婚約者候補はいつもわたしのところに乱暴な仮説を持ち込む。そしてわたしはそれを検証する。彼はそんなわたしが面白いらしく、社会学者としての名前をつけたら?などと云う。

たとえばこんな調子。
「女の子って占い好きだったりするけど、男ってそうでもないんだよね。俺の周りのノン気男をみてても。でおかまはどうかって云うとこれもあんまり興味ないのよ。だからさ、その面では生物学的な性が優先されるのかな、なんて考えたんだけど」みたいな調子。
わたしは思わず笑ってしまったあと、さっそく検証作業に取り掛かる。

「そうだね、女の子が占いを好きかどうかと云うのは難しい問題だけど、男が占いに頼るのはカッコ悪いみたいな風潮ってあったりしない? それがヘテロ男性にもゲイ男性にも等しく作用しているような気がするな。」
みたいなところから。

「生物学的な性と云う面で云えば占いに惹かれる人って云うのは両性に同じパーセンテージで存在しているんだけど、男性の方が抑圧されている」ととりあえずの結論を導き出すと、「でもさ「占いに惹かれる人」っていうのもまたひとくくりにはできなくない?」と、分類を始めてしまう。(彼がわたしを社会学者と呼ぶ所以だ。)わたしは本当に分類が上手。

「でもさ占い大好きな女の子ってのにあってみたいよね。」
「生活の全部を占いで決める人っていたら面白くない?小説書けそう」
「面白い!そのネタ譲るよ。書いてよ」
「ぢゃあ本になったら、H.氏にささぐって入れとくよ」
「お、トリビュートされちゃうんだ」
「でも死んだ人みたいだよね」
と、ここまできたら何が何やらわからない展開である。

その次に彼が持ち出したのは皮膚病を起こしやすい性格因子はあるか、みたいな話で、わたしの答えは
「やっぱりストレスの発現と考えられるけど、それがある人は胃に行ってある人は皮膚に行くと云う枝分かれがどこから来るのかはよくわからない。でもやっぱり刺激と免疫力っていう問題が避けて通れないわけでわたし的には個人的な要因も気になるけど、人類の肉体の進化の速度と社会的な生活様式の変化の速度のずれみたいなところから来る過剰反応ぢゃないかと思ったりする。」
と、寄生虫の話なんかを持ち出していろいろ説明する。
「なるほど。それ、ありだね、あ、面白い。知的な意味だけぢゃなくて身体的にもオープンソースととらえられるわけだ」
「そうそう。だからもうちょっと先の人間だったら、肉体的にも環境の変化の速度に追いついていてアトピーみたいな過剰反応は起こさなくなるかもしれない」
オープンソースと云うのはこの間彼の家にお邪魔したときに二人で論じ合った話から来ている。人類の知的進化は先人が開示してくれている共有財産のうえに在る。そこがオープンソースとしてあるところがわたしたちが受け継いだ遺産で、先へすすもうとするうえでどれだけ楽か知れない。
その日の議論は、でも世の中の大半の人がそれを参照しないのは具の骨頂だみたいな乱暴な展開を見せたのだけど(笑)。

そんなわたしたちは、社会的弱者だし、自分たちがマイノリティだということをどの瞬間でも忘れない。そこが面白いところだと思う。世の中の人をぶったぎるけど、自分たちのことも皮肉に笑えるから。

弟と久しぶりに話をして、わたしは父に電話をかけた。弟の扶養と住民票の問題について。
「なんでお前が乗り出してくるんだ?」
みたいな怪訝そうな父の反応をみながら、この人は本当にわかってないんだなと思う。わたしと弟がどういう位置にいてどういう関係かを。たとえば弟がどれだけ脆くて、わたしがいかにそこを守ろうとしているか、守るために動いてきたか、その辺の過保護さについてはまったく気づいていないのだ。
わたしは弟がシャワーを浴びているうちに、そんな父から強引に情報(問題点と必要手段と父の考え)を聞き出して整理する。そういう作業の方はわたしの方が得意なのだ。

そして弟に、問題点を整理してから説明し、彼を励ます。でもその説明さえ彼には重荷であることが見て取れた。これだけはっきりしているのになんで父にはわからないのだろうと思う。
言葉の一つ一つが彼に重さを与えていくのをみていて泣きたくなる。

しばらくして旅行に行く弟から乗るバスの集合場所とか時間とかが全然わからないという電話(そんなことをわたしに聞いてくるところからして彼のある種の脆さとわたしたちの関係がわかると思うのだけど。高速バスのチケットをわたしがとったわけでもないし、普通に考えれば知ってるわけがないのだ)。
わたしは盛大に弟を甘やかす。「調べてあげるからとりあえず携帯を充電して新宿に向かう」よう指示し、それから全部を調べて彼にメールし、さらに付け加える。「住民票などのことは帰ってきたらわたしが一緒に動くし、お父さんに聞くより区役所の人に聞いた方が確実で早いから旅行の間はとりあえず忘れてたのしんでください。土産話を待っています」

まったく過保護だ(苦笑)。でも今のところわたしたちはこんなふうにしか社会を泳げない。
わたしにしても弟が帰ってくるまで生き抜かねばならなくなったわけで(苦笑)。

そんなわけで今日の舞台にもわたしは何とか立てそうです(笑)。