朝一で病院に駆け込んだ。
ビジネスビルに入っているこの病院は、恋人のオススメ。
たぶんほとんどのひとが口コミでこの病院を知るのだろう。
ここに来るのは二種類の人。
そのビルで働いている普通の人と、それ以外の人。
それ以外の人は大体似通った職業。
役者、歌手、声優、要するに声を使う仕事の人たちだ。

仕事の状況と症状を説明して、声帯の写真を撮ってもらって、それを見ながら非常に的確なアドバイスをもらう。
わたしが心配していたようなこと―ポリープだとか結節だとか―は起っておらず、発熱による炎症によるものだとのこと。
「声帯は大丈夫。きれいないい声帯です。」
との言葉にものすごく安堵する。
使い方も間違ってなく、寧ろちゃんとプロの声帯をしている、とのこと。

診察の間中、ほんとうに良かった、と掠れた声で何度も呟いた。
声が出なくなるといつも過剰に心配してしまうのだ、このまま戻らないんぢゃないかと。
そんなわたしに先生は何度も、
「声帯は本当に心配ないから」
と云ってくれた。その度、こころの重みが溶けてゆく。

それにしても先生のアドバイスは恐ろしく的確だった。
声帯自体よりも鼻のアレルギー炎症の方が、声を使っていく上でこれからの課題になるだろう。その為にはこういう措置があります。3日間くらいは声を使えなくなるけど、稽古のスケジュールとの兼ね合いを見て、やると力を伸ばしてゆけるでしょう。
鼻が通らないという問題は自分でも気づいていたことなのだが、それを瞬時に見抜く眼力とその対処法の提示の仕方の流暢さに驚いた。さすがに、この職業の人ばかりを相手にしているだけはある。わたしが声の訓練を始めてからの年数まで云い当てたのだから、ほんとうにすごい。

お会計をしてお薬を貰い、鼻の治療の説明を聞いておしまい。
ビルを出る頃にはすっかり心が楽になっていた。
まずは熱を下げればいいわけだ。お家に帰って眠ろう。
その前に、内科に寄って帰ろうか。こうなったら病院のはしごだ!なんて。
そんな奇妙な決意をした丸ノ内の朝、つ〇ばの我が家へ帰るところ。
異常が無くて本当に良かった。

それにしても、声帯の写真がもらえると聞いて期待していたのだけど、手違いなのかもらえなかった。それが少し残念。
ピンク色に充血して腫れ上がったわたしの愛しのグロテスク。
一生ものなのだから、大切に付き合ってゆこう。