(下の続き)
「オレンジの入っていないオレンジジュース。これはなんかありそうだ」
「味噌の入っていないお味噌汁」
「クリームの入っていないクリームソーダ」
一つ一つ口に出しては嬉しそうに笑うわたし。今度は友人が不審がる番だ。
「だ、だいじょうぶ、翠?? なんか、アヤシイよ…? イっちゃってる」
「だって~、愉しいんだもん♪ あー、もっと何かないかな~。」
「えー、じゃあ、」
訝しがりながら、それでも一緒に探してくれるところは好き。
「骨のない骨格標本は?」
想像してみる。どんなだろう、骨のない稔(みのる)くん…。
(どういうわけだか、わたしは骨格標本を見ると思ってしまうのだ。
あ、稔くん!と。
骨格標本だけではなく、デッサン用石膏像のヘルメスなんかも、
わたしにとっては等しく、稔くん、なのである。
それにしても、[稔くん]という名を与えただけで、どんな厳つい像も途端になんだかおちゃらけて見えるから不思議だ。)
「うん、そう云うのも良いね!!!! でも食べ物が良いな。」
ちょうどテレビでウィスキーのCMが流れ、友人がさっそく云う。
「ウィスキーの入っていない水割り、は?」
「それはダメ。ちゃんともとの言葉が入ってなきゃだめなの。」
「勝手にルール作るなよ~、」
「だってダメなの! 割りの入っていない水割り、ならOKだよ。」
「訳わかんないじゃん。言葉として成立してないよ、割りって何?」
「うーん……。それか、水の入っていない水割り!」
「それはストレートって云うの!! 水の入っていない水割り下さい、なんて云う?」
「だからさ、あれだよ。病気かなんかで、ウィスキーをストレートで飲んじゃダメ、せめて水割りにしなさい、ってお医者さんに云われてるんだけど、どうしてもストレートで飲みたい人が、『水の入ってない水割りにして!』って…」
「真顔で嘘つくなよ、」
今度こそ、呆れたように友人が云い、わたしは思わず絶句してしまう。
「嘘…」
そうか、こういうのは、嘘というのか。
想像、とか、空想、とか、せめて、妄想、とか、
そんなふうに思っていたのだけど。
嘘、なんだ。
それならわたしの人生、嘘だらけだ。
ちょっとショック。
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