文明論の授業で、偶然先生の隣にいた私は朗読をすることになった。
これ(神秘主義の文章)は文学なので美しく読んでいきましょう、ということで。

朗読は好きなので、厭な気はしない。
照れくさいし戸惑うけれど、むしろちょっぴり嬉しいくらい。
ただ・・・
美しくとは云われたものの、あくまで授業の中での朗読だ。
どこまで情感を込めるべきかも分からない。声もわずかだが震えてしまう。
初見だし、アクセントが不安な部分も23ヶ所あった。
それでも内容に集中して意味を読み取りながら丁寧に読む。

夢のお告げに従って財宝を求めて長い旅をした男の話。
旅の果てに男は、別の夢のお告げを受けた人物と出会う。
自分はお告げなど信じないと男を笑ったその人物の夢の内容は、
遠い異国のある家の暖炉の奥に財宝が埋まっている、というもの。
そのある家とは、なんと男自身の家だった。男はその人にお礼を言うと急いで家へ帰った。
そうして暖炉の奥を掘ると、そこには夢のお告げのとおりに財宝が眠っていた。
つまり、財宝(知恵)は遠い異国ではなく、自分の家(自分の心)の奥に眠っている。
しかし、それに気づいて掘り起こすには、
遠い見知らぬ土地への長い苦難の旅を終えなければならない、というもの。

なるほどな、深いな、と思いながら読み終わってみると、
なんだか体が熱くなっている。ああ、私やっぱりこういうの好きだ。
そして、周りの反応が気にかかる。
なのに、一瞬、その場を覆ったのは沈黙だった。
ほんの数秒、だけどはっきりそれとわかる空白。
え??おとなしめに読んだつもりだけど、変に浮いちゃったかな?
逆にあっけなく早すぎて、意味が伝わってないとか・・・?
怖い。
興奮に火照った体の中を動揺が一気に駆け回る。

「すごーい、きれい! ほんとに素晴らしかった。ありがとう!」
次の瞬間、先生の言葉が聞こえてきた。
沈黙の後だけに、心底感心してくれてるように聞こえる。
「いい見本になりました。こんな風に読んでほしいの。」
先生の言葉には単なる労い以上の意味はないのかもしれない。
だけど、私はそこにこめられた賞賛を感じる。
そしてほんとうにほんとうに嬉しく思う。
さっき動揺した分、さらに体の火照りが高まったみたいだ。
あったかくなった頬が、自然に緩んでしまうのも分かる。
私がやりたいのはこういうことだ。この体の火照りがその証だと。